第158回芥川賞と第54回文藝賞をダブル受賞した若竹千佐子のベストセラー小説を「横道世之介」「モリのいる場所」の沖田修一監督が映画化し、昭和・平成・令和を生きるひとりの女性を田中裕子と蒼井優が2人1役で演じた人間ドラマ。75歳の桃子さんは、突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。しかし、毎日本を読みあさり46億年の歴史に関するノートを作るうちに、万事に対してその意味を探求するようになる。すると、彼女の“心の声=寂しさたち”が音楽に乗せて内から外へと沸き上がり、桃子さんの孤独な生活は賑やかな毎日へと変わっていく。75歳現在の桃子さんを田中、若き日の桃子さんを蒼井、夫の周造を東出昌大が演じるほか、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎という個性的なキャストが桃子さんの“心の声”たちに扮する。
おらおらでひとりいぐもコメント(9)
■劇中、3年前に夫、周三(東出昌大)を亡くした、老いた桃子さん(田中裕子)は放心したような表情で呟く。
”新しい女として生きるはずが、・・・”
-いやいや、そんなことはないよ、桃子さん。夫の最後を看取り、二人の子を育て上げたではないですか・・。娘さんは”時折お金をせびるも”可愛いお孫さんを連れてくるではないですか・・、たまにだけれど・・。
(愛した一人息子は大学入学後、連絡が途絶えてしまい・・。そして、そのために、桃子さんは250万円を騙し取られてしまったのであるが・・。)ー
◆印象的なシーンもしくはキャラクター
1.桃子さんの周りに現れる、”寂しさ1.2.3”(濱田岳、青木官九郎、青木崇高)の面白さ。ババ臭い色の貫頭衣みたいな服の上に、桃子さんと同じ色の毛糸のカーディガンを羽織っている。
口癖は”おらだば、おめだ・・”
桃子さんの寂しさを癒すがごとき現れる”桃子さんにしか見えないらしい”変なトリオ。絶妙にオカシイ。桃子さんの脳内の感情を可視化した沖田監督、上手いなあ。
寂しさ達は腰を痛めた桃子さんの病院の待合室にも表れるが、1と2は”無駄に”むち打ちになっていたり、眼帯をしていたりする・・。可笑しい。
2.桃子さんが、朝起きる時に布団の上に覆いかぶさっている”どうせ”(六角精児)もオモシロイ。口癖は”どうせ、今日も何も起こらないから寝ていなよ・・”である。
3.桃子さんが通う町医者(山中崇)の、さんざん、待合室で患者を待たせておいてからの”暫く様子を見てみましょう・・”で診察終了の”3秒診察”のシーン。
-沖田監督の、シニカルさが小さく炸裂している・・-
4.桃子さんの妄想シーン。予約席に置かれた周三の遺影。
”周三の死は、オラへの計らい・・”と言う言葉。
けれど、未練たっぷりに周三への想いを歌いあげる桃子さん。(田中裕子さん、歌、上手いなあ・・)
-良いシーンである。ついでに言えば、東出昌大さんの遺影の写真が ”あ、この人、絶対におじいさんになったら、こうなるなあ・・” と思ってしまった程、絶妙に良い。
東出さんへの”お仕置きかな?”
5.若き桃子さん(蒼井優)が、1964年に、見合いから逃げ出して岩手から東京に出てくるシーン。そして、三番目の勤め先の食堂で出会った岩手出身の周三に惚れていくシーン。
-こういう方々が多かったのだろうなあ、高度成長期には・・。この方々のお陰で今の日本があるのである。-
6.秋が深まる郊外の林の中、50年の時空を超えて、若き桃子さんと現在の桃子さんが想いを語るシーンと、幼き桃子さんと現在の桃子さんのシーン。桃子さんの足に残るケロイド状の火傷の理由が分かる。
-50年以上だもんなあ・・。イロイロあったよなあ・・。-
7.桃子さんの絶滅した古代生物への執着シーンの数々。
-成程なあ・・。類人猿に戻った町医者の”生きて、死んで、生きて、死んで・・”。冒頭のシーンをこう繋げたのか・・。-
<人はいつか一人になり、死を迎える。
けれど、その時まではキチンと生きようと今更ながらに思った作品である。
映像作家、沖田修一の手腕が随所で光る作品でもある。
「ハナレグミ」が歌う、沖田監督作詞の”賑やかな日々”も良い。>
■蛇足
・劇中、桃子さんに車を売るディーラー(岡山天音)の
”遠くの子供より、近くのホ〇ダ!” トイウセリフ。
ディーラーの数だったら、〇ヨ〇の方が多いぞ!
しかも、桃子さん、ダ〇〇ツの車からホ〇ダに乗り換えではないか!
今度、近くの〇ヨ〇のディーラーさんに使って見たら? と言って見よう・・。
(すいません・・。)
老いの孤独と悲しさ&人生の流れを、面白い形で非常に上手く表現した作品。
いつか私もあ〜なってしまうんだろうなあと感じながら鑑賞していた。離れて暮らしているとはいえ、まだ桃子さんには、子供達や孫がいるから恵まれてはいるなあと思った。
私的には、山路(山林)を歩いている時に、桃子さんの妄想が始まり、その妄想の世界で、若かりし頃の周造が老いた桃子さんの手を取り、周造と桃子さんが仲良く手を繋いで歩いて行くシーンが一番好きかな。
沖田監督の独特の解釈、いい意味で遊び感満載の映画でした。
老年期の迷いや喪失感をけっとばし、亡夫をくそ呼ばわりし、愛情をあふれさせて・・
とここまでは誉めあげましたが、致命的な一人よがりな構成はどうなんでしょう?
原作は未読ながら、ほぼすべてと言った感じで東北弁なので、言葉の意味をとりながら、ストーリーは遊びが多いでは、映画の流れに乗りにくく・・
疲れてしまいました。才能あふれる監督とは思います。また頑張って下さい。