第158回芥川賞と第54回文藝賞をダブル受賞した若竹千佐子のベストセラー小説を「横道世之介」「モリのいる場所」の沖田修一監督が映画化し、昭和・平成・令和を生きるひとりの女性を田中裕子と蒼井優が2人1役で演じた人間ドラマ。75歳の桃子さんは、突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。しかし、毎日本を読みあさり46億年の歴史に関するノートを作るうちに、万事に対してその意味を探求するようになる。すると、彼女の“心の声=寂しさたち”が音楽に乗せて内から外へと沸き上がり、桃子さんの孤独な生活は賑やかな毎日へと変わっていく。75歳現在の桃子さんを田中、若き日の桃子さんを蒼井、夫の周造を東出昌大が演じるほか、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎という個性的なキャストが桃子さんの“心の声”たちに扮する。
おらおらでひとりいぐもコメント(9)
(原作既読)①原作は冒頭から怒涛のように東北弁が溢れてくるので、関西人の私には前半は取っ付きにくく後半になってやっと良さがわかってきた。皮肉なことに、この映画化を観て原作が優れた小説であることを再認識。②「おしん」では老年期を乙羽信子、若い時を田中裕子が演じていたのが、ここでは田中裕子が老年期を演じているのが感慨深い。その若き日々を演じた蒼井優が田中裕子の様な名女優になるかはまだわからないけれど。③原作は75歳の桃子さんが自分の中の沢山の自分と会話・問答しながら自分の人生を振り返りその意味を探求していく話なので、映像化する場合は桃子さんの中の自分たちを擬人化して外に出すだろうとは予想できた。④ただ、この映画の場合、それを3人の男優に演じさせるのが良かったかどうか少し疑問。楽しいシーンもあるが、どうしても違和感がある。桃子さんは女性なので女優の方が良かったのではないか。また、外にでたらめ自分を「寂しさ」と決めつけるのは、還暦を間近にした私にはやや抵抗がある。⑤
冒頭からユーモアが溢れている。なんと46億年前の地球史のはじまりから映画はスタートし、そこから一気に現代の街の夜景にジャンプ。そして、薄暗い部屋でひとりお茶を飲む老婦人が映し出される。こんなぶっ飛んだ展開から始まる沖田修一監督の最新作「おらおらでひとりいぐも」は、ひとりの女性を通して“孤独”とは何かをじっくりと、やさしい眼差しで見つめた人間賛歌の物語だ。「おらおらでひとりいぐも」とは、「私は私らしく一人で生きていく」という意味。
主演の田中裕子さんの存在感、佇まいがこの映画を唯一無二にものにしている。「いつか読書する日」「火火」以来15年ぶりの主演となるが、昭和、平成、令和を駆け抜けてきた75歳の主人公・桃子さんの“孤独”をしっとりと時に愛嬌たっぷりに、そして強さを持って好演。孤独な寂しい日々を紛らわすための独り言、心の声なのか、それとも痴ほう症の前兆なのか、そんな危ういバランスを絶妙に演じている。
部屋の襖を開けると別の世界が現れたり、マンモスが登場したりと突飛な展開もあるが、沖田監督は現実と桃子さんの頭の中(心の中)を軽やかに行き来してみせる。“孤独”の先で見つけた新しい世界とは何か、不安や寂しさを受け入れて新たな一歩を踏み出していく姿は感動的だ。
途中で、3回ほど意識して頑張ろうと思ったのですが、駄目でした。
原作を読んでから観るかたにとっては、深い味わいや、映画での表現に納得出来るものがあるのだと思います。
が、とにかく私は撃沈しました。
地球46億年の歴史と桃子さんの人生は、一見遠いようで、俯瞰すれば脈々と続く命のバトンで繋がっている。人間は生まれる時もひとり、死ぬ時もひとりだが、家族や出会った人々など、有限の時間を一緒に過ごした人と、過去の自分自身の記憶は共にある。単に独居老人のありようにとどまらない、人生への向き合い方についての含蓄に富む豊穣な映画体験だ。