光石研が12年ぶりに映画単独主演を務め、人生のターニングポイントを迎えた男が新たな一歩を踏み出すまでの日々をつづった人間ドラマ。北九州の定時制高校で教頭を務める末永周平は元教え子の平賀南が働く定食屋を訪れるが、記憶が薄れていく症状に見舞われ、支払いをせずに立ち去ってしまう。ふと周囲を見回してみると、妻・彰子との仲は冷え切り、娘・由真は父親よりもスマホ相手の方が楽しそう、さらに旧友・石田との時間も大切にしていなかったことに気づく。これからの人生のため、これまで適当にしていた人間関係を見つめ直そうとする周平だったが……。元教え子・南を吉本実憂、妻・彰子を坂井真紀、娘・由真を工藤遥、旧友・石田を松重豊が演じる。「枝葉のこと」などで国内外から高く評価された二ノ宮隆太郎監督が、「2019フィルメックス新人監督賞」グランプリを受賞した脚本をもとに自らメガホンをとった商業デビュー作。
逃げきれた夢コメント(1)
最初から最後まで、ドンパチ盛り上げようとするような、気が抜けない映画ではない。
冒頭から物語中盤、後半にかけても、退屈なくらい何も起きない坦々とした展開、描写で眠くなるか、もう席を立とうか、と思わせる。それでいて、終盤に入るとどんどん引き込まれ、最後には大きな感動が押し寄せる…。
そういう作品がよい映画である。
本作もその一本と言ってもいいだろう。
中盤あたりまで、地方の定時制高校で教頭をやっている定年間近の男の日常を光石研が淡々と演じる。
親の介護や妻、娘との関係。学校で生徒との関係などなどを描くが、興味を引くような内容はほとんどない。
光石もひたすら、小さな男を演じ続ける。
定年間近で、出世とは縁遠く、まじめに働き続けた。
それでいて、家族や職場から尊敬されたり、一目置かれるような存在でもない。
自分の人生はなんだったか。
多くの中高年男性が感じる、一種の悲哀がスクリーンから伝わる。
これって、僕の心境、生活を映しているのか、と見ながら思った。
最後も劇的なものがあるわけではないが、かつての教え子の女生徒との会話から感じるものが、僕の心に津波のように押し寄せたのだ。
封切りまでちょっと間がある。
コロナ禍以降は試写室も遠かったのだが、昼間に時間が空いたので、予備知識まったくなし。光石主演の映画、という知識しかないまま、久しぶりに試写に行った。
そこでよい作品に巡り合えた。
監督はこれが商業映画デビュー作というのはちょっとした驚きだ。
21世紀の小津がここにいた、と下手なレビューが書きそうだ。