南仏の海辺の町を舞台に、3人の兄たちと一緒に母を介護する少年の芸術への目覚めを、オペラの名曲の数々と共につづったヒューマンドラマ。これが長編デビュー作となるヨアン・マンカが監督・脚本を手がけ、自身の体験を交えながら詩情あふれる映像で描き出す。古ぼけた公営団地で家族と暮らす14歳の少年ヌール。昏睡状態の母を3人の兄たちとともに自宅介護しながら、家計を助けるためバイトに明け暮れる日々を送っていた。そんなヌールの日課は、夕方に母の部屋の前にスピーカーを持っていき、母が大好きなオペラを聴かせてあげること。ある日、教育矯正の一環として校内を掃除していたヌールは、そこで歌のレッスンをしていた講師サラと出会い、歌うことに夢中になっていく。出演は「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のダリ・ベンサーラ、「女の一生」のジュディット・シュムラ。
母へ捧げる僕たちのアリアコメント(2)
本作の裏テーマとなるのは“移民”。舞台となる海辺の町とはおそらくマルセイユ近郊。南仏最大の港町マルセイユには地中海を通って各地の移民・そして難民が集まる。劇中での長男アダムの言葉「あの港に一家でたどり着いた」でも分かるように、おそらく彼らはアルジェリアから来たと思われる。
アメリカと並ぶ移民大国フランスだけに、移民出身としての貧困・差別問題は根強い。それは『海辺の家族たち』や『オートクチュール』などといった近作のフランス映画でも描かれている。
移民出身者としての貧困状態に苦しむ4兄弟。そんな境遇から脱したいと強く願う四男ヌールは、思わぬ形で歌唱力を認められる…とここまで書くと歌手として名を成すサクセスストーリーだが、本作はそこまでは描かれず、むしろここからがスタート…というところで幕を閉じる。これを物足りないと思うか描写不足かと思うかは人それぞれだろうが、少なくとも中途半端なサクセスストーリーに仕上げた『オートクチュール』より全然マシだった。
『僕の兄弟と僕』という原題からも察せるように、あくまでも本作は貧困に喘ぎながらも逞しく生きていく兄弟の物語だ(そういう意味で邦題は少々ミスリード)。やはりアダムの言葉「やっとたどり着いたのにみんなこの町を出て行ってしまう」は、巣立っていこうとする弟への惜別とエールである。
心の底では決して諦めない、愛おしいリスペクトで走り抜けていました。
また、PCやYouTubeを当たり前のモノとしている最近の出来事が題材なのですが、それらがなかった1980年代と比べて・・・・・、フランスでは、みんな、あんまり変わってないなあ、これがフランスなんだなあと、まるごと、受け容れることができる作品でした。