幼い息子を失った女性の希望と再生の旅路を描いたミステリードラマ。エレナは元夫と旅行中の6歳の息子から「パパが戻ってこない」という電話を受ける。人気のないフランスの海辺から掛かってきたその電話が、息子の声を聞いた最後だった。10年後、エレナはその海辺のレストランで働いていた。ある日、彼女の前に息子の面影を持つ少年ジャンが現れる。エレナを慕うジャンは彼女のもとを頻繁に訪れるようになるが、2人の関係は周囲に混乱と戸惑いをもたらしていく。スペインの新鋭ロドリゴ・ソロゴイェン監督が、2017年に製作しアカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされた短編「Madre」をオープニングシーンとして使用し、息子を失った女性の“その先”の物語を描き出す。第76回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品され、エレナ役のマルタ・ニエトが主演女優賞を受賞。
おもかげコメント(8)
彼氏がいて、その彼氏と一緒に住む事になっていても、息子似の彼の前では、色褪せてしまう。彼女にとって彼は…
その後息子がどうなったのか?元夫は何をしていたのか全く説明のないまま、息子似の男の子に惹かれて行く主人公。
結局彼女が探していたのは、懐かしい息子の面影というよりも、息子を助けられなかった罪悪感から逃れる道だったんだ。
かけがえのない人を失う悲しみは、多かれ少なかれ誰もが経験することだ。
死であれ、別離であれ。
そして、その現実を受け止められないことだってある。
海岸に止まるエレナは、ある意味、かけがえのない人との思い出から抜け出せないでいる僕達と同じではないのか。
かけがえのない人の面影を追い求めたことはないか。
一緒に訪れた場所で、思い出すことはないか。
少し前に進めても、ふとした時に、また面影を追い求めていることはないか。
環境が変わり、全く新しい生活を始めても、ふと面影が頭の片隅をよぎることはないか。
エレナは、面影をみたジャンに別の愛情を注ぐのか。
最後、エレナは何を伝えようとしたのか。
また、ずっと止まるのか。
観るものに想いを委ねられたエンディングは、僕達が面影とどう向き合ってきたのかで、異なるのだろう。
少しモヤモヤした余韻を自分なりに咀嚼して楽しむ作品だと思う。
6歳の少年を失ったところから物語は始まる。
主人公のエレナは10年経った今もなお息子を失った事から立ち直ることが出来ず、また息子を失った原因となった元夫の過ちを許すことが出来ずにいた。
現在ビーチで働くエリナだがこれまた息子が失踪した場所(正確にここのビーチではないと思うが)で働く事でなにか心の気休めになっているのか…情報量が少ないためこちらがエレナの心の闇に入っていてしまう。
この辺りのこの作品特有のミステリアスさに引き込まれるのがこの作品の良いところであろう。
そこから海岸で失った息子によく似たジャンと出会う。ここからいわゆる息子の「おもかげ」に心が囚われてしまう。彼を目にし、彼と会話をし、時には共に行動し、そして彼といない時間まで彼の事で心が囚われてしまう。
これは決して恋愛感情ではない。本来息子に注ぎ込むはずだった愛情への高ぶりのように僕には感じた。
ジャンはおそらくエレナに恋愛感情を少なからず抱いてたようにも思えるが、エレナが自分に注ぎたいはずであろう愛情の心の扉を開けるよう優しく接していたようにも思えた。
ただ忘れてはいけないのはジャンは未成年の少年であり、決してエレナが失った息子ではない。
この現実と心囚われたた「おもかげ」の溝を終始ゆっくり丁寧に描かれていたように思えた。
序盤はほんの一瞬ジャンがまさか失った息子なのかなと疑ってしまった瞬間はあったが、早い段階でこの作品はそういう作品ではないというのは気付かさせられる。
その点においては間違った方向で見る事なく非常に見易かった作品のように思える。
心の闇やトラウマといったミステリアスな世界を楽しめる面白い作品であった。