これが長編初監督作となる小村昌士監督が、「アルプススタンドのはしの方」などインディーズ映画界で注目される小野莉奈を主演に迎え、大人と社会の矛盾をシニカルな笑いとともに描いたコメディ。地方テレビ局のチャリティー番組でオフィシャルサポーターを務める19歳の柏倉リン。番組内ではハート型の被り物をし、「世界平和」をうたって募金を呼びかけているものの、実生活では周りの大人たちと馬が合わず、バイト先でも上手くいかないことばかり。社会の欺瞞と不寛容さにいら立ちを募らせていくリンは、そうした日々の中で二十歳という人生の節目を迎えることになるが……。若手クリエイターの作品を対象とした「MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021」のコンペティション部門でグランプリと最優秀女優賞をダブル受賞。
POP!コメント(1)
いい塩梅の効いた特濃ハートフルコメディ。思春期とはまた違ったステージにある大人の狭間に、今の自分が重なる。
主人公が19歳から20歳の狭間。ここまで歩いてきたけど、意外と何もないことに気づく。それにどこか親近感と余韻を覚える。確かに自分も夢は持っているが、具体的に進む方法や手順は何も分からない。プカプカ浮かんだモノだけが遠くで光っている。いいのか悪いのか分からないまま、そこにある。同時に、大人の諦め方なんて知るはずもないから、片付けないで何でも聞く。共感と違和感、シュールさを引きずりながらグイグイと我が物に持っていく面白さがある。
主演は小野莉奈。常々思うのだが、彼女のキャリアは着実に根を張るような人に写る。そんな彼女がシュールな被り物をして、それが答えだと押し付けられた枠組みで葛藤する様はどこか儚い。諦めているわけではないが、希望を見出そうとも思ってない。純粋さと理屈っぽさが入り交じる塩梅が効いている。グランプリ獲るのも、女優賞を獲るのも納得だ。
決してはっきりとしたメッセージを投げつけてくるわけではないのだが、不思議と内容を平らげると、美味しかったと思える。ムーラボらしい音楽の使い方といい、チャーミングで不思議な世界観をリアルと交わる違和感が堪らない。マーチルンバもその1つ。POP!の意味が分かったとき、どことなく彼女の向かう道が見えた、気がする。