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映画に愛をこめて アメリカの夜コメント(10)
神経症の主演女優、台詞を覚えられない中年女優、失恋で職務放棄の俳優、駆け落ちするスタッフ、ベテラン俳優の死…色んな人が集まって、数々のトラブルが起きて、それでも映画を作るという目的のためだけに同じ方向を向いている。
そして映画を作り終えると、何事もなかったかのようにあっさり散ってゆく。
群像劇で大きな事件が起きるわけでもない。それでも胸を打つ映画です。それはなぜか?
ストーリー中、監督=トリュフォーがトラブルに魘されながら毎夜観る一続きの夢が、ひとつの答えになっています。
チャップリンのような格好で杖をカツカツ鳴らしながら、人通りのない夜道を歩く少年。
映画の撮影終了間近の夜、夢の最後で少年は、閉館した映画館の柵越しに、杖を使って映画のポスターを盗みます。
そう、どんなにトラブルに苦労しても、映画を取り続けるのは、単純に、映画が好きだから。
そんな純粋な想いが伝わってきて、心が熱くなる映画なのです。
観なくても見える。
わたしにとっては、そういう映画。
①とうとう観ました『アメリカの夜』!観なアカンと思いながら50年くらい経ってしまいましたね。評判に違わぬ秀作です。②ジャクリーヌ・ビセットがやはり美しい!③ナタリー・バイが思ったより大きな役(助監督?)で、自分と寝たがっていたスタッフに『やりたいのなら、さっさとやりましょうよ』と尻をたたいたり、間違って開けた部屋でその男がべつの女性スタッフとベッドインしていてもニッコリ笑っていなしたりと「男より映画優先」な女の子を好演。④予想したことも予想外のことも次々と起きる中で何とか映画を完成させようと淡々と現場を引っ張っていく監督をトリュフォー自信が好演。映画愛をあちこちに散りばめていて(冒頭のサイレント時代の大スターであったギッシュ姉妹への献辞、子供の頃に映画館の『市民ケーン』の写真を盗むモノクロシーン、取り寄せたそうそうたる映画監督に関する本等々)、誠に楽しい。⑤しかし撮っている劇中映画の『パメラを紹介します』が少しも面白しろくなさそうなのが皮肉に面白い。
映画「映画に愛をこめて アメリカの夜」
(フランソワ・トリュフォー監督)から。
映画好きの私にとっては、映画製作の現場を題材に、
物語が展開されていくので、感激があるわけではないが
楽しく観ることが出来た。
そこで選んだ台詞は、映画製作に関するフレーズ。
「映画製作は、駅馬車の旅と似ている。」
そして「期待が消え、結局は目的地に着くことだけになる。」
完成品だけを観ている私たちは、その過程は意識しないが、
キャストやスタッフの、アクシデントやトラブルをはじめ、
製作予算が途中で足りなくなったり、懸案問題は山積み。
はじめは、新しい作品に期待いっぱいであるが、
途中から、なんとか完成までたどりつきたい、と気持ちが変わる。
そんな気持ちが伝わってきた台詞である。
「映画監督とは、あらゆる質問を浴びる人種である」
「映画俳優は傷つきやすい」
「恋は映画の敵だ」など、映画ネタは尽きなかった。
「映画を通じ人生を豊かにすることが出来る」ことは確かなようだ。
映画「パメラを紹介します」の大掛かりなセットの撮影風景から始まり、劇中の息子が実父を射殺するラストシーンまで、映画はあらゆる裏話、トリックやスタントマンの仕事振りなど、完成した映画では計り知れない楽屋落ちを暴露する。観客の興味や好奇心を素直に引き出す爽やかな印象が残る。トリュフォー監督の言葉で言えば、(人を退屈にさせること、一部の人にしか語りかけないことを禁じている)の真意に適った作品に仕上がっている。
流麗でリズミカルな音楽と移動カメラや撮影シーンの連続カットのモンタージュが一つになった演出タッチの心地良さ。最後にTVレポーターの質問に大道具係が答える。(我々がこの映画「パメラを紹介します」を楽しんで作ったように、お客さんもこの映画を楽しんで観てくれれば言う事ないな・・・)トリュフォー監督の優しく温かい人間性が感じられる。映画と女性を愛するトリュフォー監督そのものの映画作品だ。
1976年 4月29日 早稲田松竹