日本・ミャンマー合作による初長編作「僕の帰る場所」が第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門グランプリを受賞するなど、国内外で高い評価を受けた藤元明緒監督の長編第2作。日本とミャンマー両国で引き裂かれる在日ミャンマー人家族の実話を映画化した前作に続き、今作でも在日アジア人の実態をテーマに取り上げ、外国人技能実習生として来日した若い女性たちの置かれた現実を描いた。技能実習生として日本へやってきたものの、不当な扱いを受けた職場を逃げ出した3人のベトナム人女性たち。違法な存在となった彼女たちはブローカーを頼りに新たな職を求め、雪の降る北の港町にたどり着くが……。藤元監督がインターネットを通じて知り合った外国人技能実習生の女性が、過酷な労働の日々の末に行方知れずになったことから、彼女と同様の境遇にある女性たちを取材し、オリジナルの脚本を書き上げた。
海辺の彼女たちコメント(4)
フォン、アン、ニューの3人はベトナムから来た技能実習生。3カ月働いた職場では土日も休みなく1日15時間働きづめだが残業代も支払われず、ある夜逃げ出して青森の港町にたどり着く。そこでブローカーから漁港での仕事と寝床を世話してもらう。故郷の家族に仕送りをするため新たな環境で懸命に働く3人だったが、やがてフォンが体調を崩してしまう。
藤元監督は冒頭、技能実習生が劣悪な条件で過酷な労働を強いられ、失踪~不法就労という苦渋の選択をするまでを前提として示す。外国人受け入れをめぐる問題への視野を広げてくれる序盤だが、映画の主眼はそこではない。家族から遠く離れた異国で心細い思いを抱えながら働き暮らす彼女たちの支え合う姿や、不自由な選択肢の中から決断するしかないフォンの孤独な“前進”へと、物語はシフトしていく。大きな社会の問題を客観的に眺めるのではなく、困難な状況にある当事者として、あるいはそばにいる仲間として、この物語を受け止めることが促されているように思う。
本作は鑑賞して完結する映画ではない。日本に暮らす観客ならなおさらだ。とはいえ、なにも社会の変革や制度の改善のために行動を起こせなどと言うつもりはない。自分が思ったこと感じたことを、たとえば映画.comのレビュー欄でもSNSでもいい、誰かに伝える。そうしたささやかな想いのバトンがつながり広がっていくことで、明日の社会が今日より良くなっていくのだと信じたい。
ルールからはみ出る不法就労外国人たちを救うことはできないのか?これは日本に留まらず世界中の問題である。不法就労者たちを無碍に扱う日本の社会、ひいてはそのような者を生み出してしまう出身国、考え出すと止まらないだろう。